iPad Proのプレス機破壊広告の炎上について思ったこと

Apple が新しく発売する iPad Pro (iPad Pro(M4))の宣伝広告を「Crush! 」と銘打って、ピアノとか彫像、画材、カメラ、テレビをプレス機にかけて破壊する表現をプロモーション動画内で使用して炎上したニュースを見て思ったことを簡単に書いてみます。既に散々言われてるので広告を見た個人の感想です。

まず前提として、元々 Apple って iPhone とか Mac とかで所有すること自体に価値を持たせてたと思うんですよね。少なくとも自分はそう思っていました。いわゆる Apple の熱心なフォロワー層も(特に新発売の)製品を所有する事、とか、アップルのコミュニティに参加してる事に価値を感じるように世界観を設計してたと思います。

で、この広告自体は最大限好意的に解釈すれば「もういちど全てを圧縮して価値を iPad に集約する」みたいな事を狙っていたんだと思います。が、圧縮される最中にそれらの破壊表現を執拗なまでにじっくりねっとり描写して視聴者を不快にさせた事で炎上したんだと思います。

人間って自分が触れているモノの価値を(徐々に)高く感じる「単純接触効果」ってのがありますが、このことを最大限に活用してブランドを展開していた側面があると思います。

他方、プロとして活動している人たちにとって表現に使ってる道具なんて常に接触してて価値が高いどころかもう一人の自分くらい思い入れがあることもありますよね(かつて楽器の道を志していた経験からも強くそう思います)

その各々思い入れがある道具の破壊過程を執拗にスローで見せつけるって、そりゃ不愉快な気持ちになりますよね。思い入れのある品を破壊されて喜ぶとか通常あり得ないですし。SNSでは殊更日本人だけが文句を言ってるなんて逆張りしてる人たちも居ましたが、この単純接触効果って大半の人間が持ってるバイアスと言われているため広告を見た人は等しくある程度の不快感を感じるため、別に日本人だけの特別な感情では無いと思います。

また、破壊する種類が多い事で、間接画的に攻撃する対象範囲が非常に広いのが今回特筆すべき点だと思いました(まぁ広く届けるという意味では確かに届きましたね…

翻って Apple は今まで所有することの価値を誰よりもよく知ってると思っていましたが、自社製品以外のモノにここまで無頓着だとは思いませんでした。長年のブランディングは誰より所有による価値を理解しているかと思いきや自社製品を売るために他人が持つ製品を破壊することも厭わないくらいの無神経さを発露して案の疑問も持たなかったのが今回の発信につながってるのかと思います。徐々にそういった無神経な会社に変容しつつあるのかもしれません。

アメリカのビッグテックって基本的に強気ですし、消費者の味方では必ずしも無い側面がありますが、普段そういった部分をうまく隠して会社のイメージを制御してると思います。が、長期に渡って大きく成功している影響からか、本質的には傲慢なのを隠す気が無くなってきたのかな?と穿った見かたをしてしまいそうです。

そういうった事で、ある意味徐々に企業としての質が悪化・劣化していると考えたほうがいいのかもしれませんね。(内容は二の次で革新性もさておき新しい製品を定期的に発表して大量に)売らないといけないというプレッシャーが脅迫的なCMの発表に Apple を駆り立てたと考えるとある程度納得できるところがあります。

最初に戻って、自分がCMを見た感想ですが(既に炎上を知ってバイアスがかかった状態でしたが)CMを視聴しましたが、これは確かに気分がいいものではないな、というのが感想でした。

繰り返しになりますが、わざわざ破壊するさまをスローでねっとり見せつける必要あった?みたいな。レトロな音楽にのせてポップに文化や他社の価値を破壊しつつわが社の製品を買えって態度がなかなかに傲慢です。もっとブランドイメージに沿った他の表現方法があったと思います。映像からは何というか高度に野蛮で知的な配慮が相当欠けてるな、といった印象でした。

特に昨今SNSで自分の代わりに言葉を言語化してくれる仕組みが完成しているので、一昔前ならばあの映像を見て個々人がモヤっとしてただけかもしれませんが、ネット上の誰かがこの不快な感情を「視聴者を愚弄して攻撃してる」のような形で言語化されると簡単に炎上します。こういった他者を潜在的に攻撃する表現を使うならもっと気を遣えばいいのにと思いました。

(Apple 社的には非常にありがたいことにだと思いますが)熱心な Apple 製品のフォロワーが色々意味づけを行って擁護を試みてますが、あまりうまくいっていないようです。まぁそりゃあ見た結果不快な気持ちになった以上、論理的に意味づけした反論はほとんど意味を成さないと思います。何しろ多くの人の感情がムカついたからには論理立てたところで勝てないですし。表現が誤解という弁解の余地はほぼ無いので早めに素直に謝って撤回しましょうねと思います。→ 謝罪はしたみたいですが。

かなりの金額を投じてプロモーションを行うのだと思いますが、高額を投じる割に Apple 内での監査の仕組みが機能不全を起こしてそう、もしくは誤った価値観が蔓延してそうというのはなんとなく感じる事が出来ました。

個人的に Apple のフォロワーでもないし、直接的な利害関係があるわけではないので基本的に他人事でトピックに参加しましたが、今回の表現方法のような他人を潜在的に攻撃する可能性がある表現は慎重にしましょうある意味当たり前の感想を覚えました。

参考サイト

iphone-mania.jp